実験や検証、日々の業務で苦労して得たデータ。
その詳細な条件や、網羅的な結果の表を、そのままPowerPointスライドに貼り付けていませんか?
かつての私もそうだったのですが、技術者というのは「せっかく苦労したんだから、全部見せたい!」と思うものです。
その熱い思い、痛いほどよくわかります。
加えて、周囲のメンバーも同じようにたくさんのデータを載せた資料を作っていることが多いため、違和感を抱きにくいのですが、実はこの「全部見せたい」という思いこそが、「伝わらないスライド」を生み出す大きな原因になっています。
今回は、あなたの導き出した結論を真っ直ぐに届けるための法則、「1スライド1メッセージの”本質”」についてお伝えします。
💡あわせて読みたい:全体像を知りたい方へ
本記事は、資料作成のノウハウ「引き算の法則」の第三弾です。スライド作成における全体的な考え方については、ぜひこちらの記事も先にご覧ください。
【Before】このスライドは何が言いたいのか?
始めに、こちらのスライドをご覧ください。あなたはどのように感じるでしょうか?

社内のプレゼンテーションや技術系の講演でみられる、ありがちなスライドではないでしょうか。
パッと見て、何が言いたいスライドか分かりますか?
- 上に表があり、下に文章がズラッと並んでいる
- 表をみると、「水準、成分1、成分2、耐食性、摩擦係数、硬度、コスト」が記載されている
- 各項目に「数値」や「良好」などの評価基準が混在している
- 下部の文章には、各項目の詳細が説明してある
一つひとつの情報を辿ると、よくデータが検証・整理されており、丁寧に説明されているように感じます。しかし、「で、結論は何でしょうか?」という疑問が湧きませんか?
担当者同士の少人数の打ち合わせなら理解できるかもしれませんが、ある程度の人数が集まる場や、不特定多数への報告の場では、理解の追いつかない人が出てくるでしょう。
スライドにある表と長文を、目を細めて一生懸命読んでみましょう。
「えーっと、耐食性はNo.1,2,4が良くて、摩擦係数はNo.1,3,5が高い…コストはNo.3が80%、1,2が90%で低減効果あり…硬度は大差なし…」
「……要するに『成分Bを使ったNo.2』が性能を維持しつつコスト削減できて一番優秀、ってことですか? どこにも明確な記載がないけど…」
そうなんです。「頑張った成果を全部見せたい」という作成者の自己満足で細かいデータを山ほど貼り付けると、聞いている側の多くは頭の中に「??」が浮かび、「うーん、細かくてよくわからない。結局、本質は何?」となってしまいます。
このスライドの問題点は、以下の5点に集約されます。
- 情報過多:
表の項目が多く、何が重要な項目か分からない。 - 専門性の壁:
表中の数値が、有識者でないと瞬時に理解できない。 - 読むことの強要:
文章が長文で、読むのに時間がかかる(スライドは「読む」ものではなく「見る」ものです)。 - 解釈の丸投げ:
結局どの水準が一番よいのか、明確な結論(メッセージ)が記載されていない。 - 視線移動による疲労:
表を理解するために文章を読み、また表に戻る……と、何度も視線を往復させることになる。
特に、「5」は、聴衆がこのスライドをどのように理解しようとするか?という観点がないと出てこない盲点です。
視線を上下に何度もズラして情報を照らし合わせる作業は、脳に大きな「認知負荷」をかけます。
人は無意識のうちに疲れることを避けたがるため、この視線移動が発生するだけで、聴衆はスライドを理解することを諦めてしまう可能性が高いのです。
【After】1スライド・1メッセージの“本当の意味”
続いて、「引き算」して生まれ変わらせたスライドを見てみましょう。

どうでしょうか。一瞬で「成分Bへの変更でコスト10%削減できた」という最大の成果(結論)が目に飛び込んできますよね。
修正した内容は以下の3点です。
- 一番伝えたい「結論」をスライド上部に大きく配置する
- コストが減少した事実を一目でわかるよう、シンプルなグラフに変換する
- 結論を導くために直接関係ない他のデータは、思い切ってスライドから削除する
つまり、プレゼンの大原則としてよく知られる「1スライド=1メッセージ」を徹底したスライドになります。
「他のデータを掲載しなくていいの?」と思われるかもしれませんが、結論を伝えるためにあえて情報を引き算する勇気が必要です。
結論が伝わらなければ、他の詳細なデータを掲載する意味も薄れてしまいます。
とはいえ、実務においては「そうはいっても、相関関係を示すために複数のデータを載せないと通じない!」という場面もあるでしょう。
ここでの「1スライド1メッセージ」とは、「要素を絶対に1つにする」ということではありません。「このスライドで最終的に伝えたい『本質(結論)』は何か?」を一つに絞り、それを邪魔するデータは引き算する、ということです。
本質が伝わらない複雑なスライドを出していると、「この表の右上の数字の意味は?」「これって何を示しているんだっけ?」といった、本筋からズレた重箱の隅をつつくような質問ばかりが飛んでくるようになります。それを防ぎ、建設的な議論に集中させるのがこの「引き算」なのです。
ぜひ使ってほしい言葉「詳細は巻末資料へ」
「でも、細かいデータを載せないと上司に『根拠は?』って突っ込まれそうで怖い…」 そんなあなたに、引き算を成功させる最大のコツをお伝えします。
それは、OKスライドの右下にある魔法の一文です。
「※各水準の耐食性・摩擦係数などの詳細データは巻末資料をご参照ください」
削った詳細な表や長文は、完全に捨てるわけではありません。「Appendix(参考資料)」として巻末にそっと忍ばせておくのです。
本編では「結論」だけをズバッと伝え、もし質疑応答で細かい条件を聞かれたら、その時に巻末資料をサッと出せばOK。
これで質疑応答で困ることもありませんし、「ちゃんと検証しているな」という信頼感も得られます。
💡 ワンランク上のTips:PowerPointのリンク機能を活用しよう!
巻末資料を用意しても、プレゼン中に「えーっと、そのデータは後ろの方の…」とスライドを行ったり来たり探すのはスマートではありません。
そんな時は、本編のスライドにある「※詳細は巻末資料へ」のテキストに、PowerPointの「ハイパーリンク機能(このドキュメント内へのリンク)」を設定しておきましょう。
質問が出た瞬間にそこをクリックすれば、一瞬で目的のスライドに飛ぶことができ、プレゼンのプロフェッショナル感が格段にアップします。
伝えるスライドを作成するための「3つのステップ」
明日からの資料作成で使える、具体的な手順に落とし込みました。

まとめ
今回ご紹介したルールは、「スライド本編は結論ファースト。詳細は巻末へ。」でした。
冒頭でもお伝えした通り、「1スライド1メッセージ」の本当の意味は、「スライドに要素を1つしか置いてはいけない」という物理的な制限ではありません。
「あなたが一番伝えたい『本質(結論)』を一つに絞り、それを隠してしまう余分な情報を、勇気を持って引き算する」ということです。
苦労して実験や検証を行い、ようやく導き出した大切なデータたち。それを削るのにはとても勇気がいりますし、「全部見せたい!」と思うのは技術者として当然の感情です。
しかし、その「全部見せたい」という作り手側の思いを手放し、結論ファーストに徹することで、初めてあなたの本当の努力と成果が相手に真っ直ぐ届くようになります。
削った細かなデータは、決して無駄にはなりません。
巻末資料という「お守り」として控えておくことで、質疑応答という次のステップで深い議論を生み出すための武器になってくれます。
ぜひ次回の資料作成から、相手にあなたの「本質」を届けるための、思い切った引き算を試してみてください!
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