プレゼンテーションをした際に、「本当に伝わっているのだろうか?」「あまり伝わっていない気がする」「なんだか聴衆の反応が薄い」と感じたことはありませんか?
実は、研究員や技術者というのは、得てしてプレゼンテーションが苦手な方が多い傾向にあるように思います。
(もちろん、とても上手な方もたくさんいます!)
普段の研究に取り組む姿勢や技術力は素晴らしいのに、「伝え方」で損をしているのは、本当にもったいないことです。
伝わるプレゼンは、「わかりやすい資料(中身)」と「相手に合わせた伝え方(マインド)」の掛け算で決まります。
本記事では、社内のプレゼンテーション研修で1位を獲得し、国内外の顧客向けプレゼンテーションで多くの商圏を保守・奪還してきた私が、現場で培った「伝わる」プレゼン術をお伝えします。
研究員のプレゼンに潜む「4つの罠」
なぜ、研究員や技術者のプレゼンは難しくなってしまうのでしょうか。
そこには、多くの研究員が無意識に陥ってしまう「4つの罠」があると考えます。
1. 無意識のうちに使う専門用語
発表内容を一番理解しているのは、他ならぬ発表者(研究員自身)の場合がほとんどです。
そのため、自身の脳の中で「話が完結」しており、無意識のうちに社内や業界内の専門用語などをそのまま使ってしまいます。
しかし、普段使っているその言葉、聴衆全員が理解できるとは限りません。
みなさんの中にも思い当たる節はないでしょうか?
例えば、家電量販店でパソコンやスマホを買うとき、店員さんから「この機種はCPUのコア数が多くて、メモリも16GB積んでいるのでスワップが起きにくいんです」と説明されても、チンプンカンプンの方が多いのではないでしょうか。
それよりも「複数のアプリを同時に開いても、動画がカクカクせずにサクサク動きますよ」と言われた方が、スッと理解できるはずです。
2. 知識レベルのミスマッチ
プレゼンは、「相手の知識レベルに合わせる」ことが大前提です。
基礎知識がない相手に高度な話をしても理解されませんし、逆に専門家相手に基礎から話しすぎても退屈されてしまいます。
例えば、初心者にカレーの作り方を教えるときを想像してみてください。
普段から料理をする相手なら「お肉と野菜を炒めて、ルーを入れて煮込んでね」で伝わります。
しかし、初めて包丁を握る相手に同じ説明をしてしまうと、「野菜ってどのくらいの大きさに切るの?」「炒める火加減は?」と迷子になってしまいます。
相手が「どこまで知っているか」を想像せずに話を進めてしまうのがこの罠です。
たいていの場合、相手の知識レベルや「何を知りたがっているか」を事前に推し量ることをせず、自身の話したい順序でプレゼンしてしまうことでミスマッチが起こります。
3. 分かりやすさより正確性に執着
複雑な研究内容を分かりやすく伝えるのは、非常に骨の折れる作業です。
そのため、研究員は「学術的に正確に伝えた方が、結果的に誤解を生まない(分かりやすい)」と勘違いしがちです。
学会などの一部の場ではもちろん正確性が命ですが、顧客や他部門へのプレゼンの大多数は、学術的な厳密さよりも、「要するにどういうことか」という簡潔な説明の方が求められます。
例えば、朝、出かける前に明日の天気を知りたいだけなのに、「西から低気圧が近づいており、上空1500メートルにはマイナス〇度の寒気が流れ込んでいるため、大気の状態が不安定で…」と、気象のメカニズムを延々と説明されるようなものです。
聞いている側は、正確な気象条件ではなく、「つまり、今日は傘を持っていったほうがいいの?」という結論(要点)だけを知りたいのです。
4. データをなんでも見せたがる
研究開発をしていると膨大な「データ」が生み出されます。
試行錯誤し、多くの失敗を繰り返して手に入れたデータは個人だけでなく企業にとっても大切な財産です。
研究員はその一つひとつのプロセスを自分の手で進めているため、その苦労や過程の「すべてのデータ」を細かく見せたがります。
それは、友人に旅行の思い出を話すとき、自分のスマホに入っている500枚の写真を最初から順番に見せようとするようなものです。
自分にとってはすべてが大切な思い出ですが、相手からすれば「似たような風景」や「ピンボケ写真」まで見せられるのは苦痛ですよね。
相手が見たいのは、旅行の楽しさが一番伝わる「とっておきの5枚(ハイライト)」だけなのです。
大切なデータであっても、プレゼンの目的に直結しない情報であれば、それは聴衆の理解を遠ざける「ノイズ(邪魔な情報)」になってしまうのです。
なぜ自ら罠に陥るのか?
なぜ、研究員はこれらの罠にハマりやすいのでしょうか?
それは、研究員が日々泥臭い作業をしながらデータを収集し、真摯にレポートと向き合っているからです。
「科学的妥当性を担保したい」「間違ったことは言いたくない」という研究者としての誠実な心理が働くためと考えられます。
さらに、普段の業務においては、チームメンバーと意思疎通ができればよく、専門用語を交えた難解な話でも問題ないでしょう。
そのため、自分たちが難しい話をしている意識自体が薄れてしまうのです。
万が一にもツッコミを受けないようデータを詰め込み、厳密で難しい言葉を選んでしまう。
つまり、研究員としての「正当性(強み)」が、プレゼンという場では「伝わりにくさ(弱み)」に反転してしまっているのです。
現場で培った「伝わる技術プレゼン」とは?
私はこれまで、国内外問わずお客様へたくさんのプレゼンをしてきました。
特に海外でプレゼンする際は、よりシンプルに要点をまとめないと伝わりません。
難しい内容をどのように伝えたらよいか苦心した結果、5億円以上の商圏を獲得したこともあります。(もちろん、自分の力だけでなく、関係者の多くの支えがありました。)
そんな私が心掛けている「伝わる技術プレゼン」のポイントは次の4つです。
① 専門用語は「日常の言葉」に翻訳する
専門用語を使いたいときは、「誰でも分かりやすい言葉」や「例え話」に置き換えるように意識していました。
なお、どうしても専門用語が必要な場合は、スライドの端に注釈を入れたり、初出の際に簡単な説明を添えるようにしていました。
そうすることで、聞き手の理解が深まります。
② 「相手の理解度と知りたいこと」を考え、「ゴール」を設定する
プレゼン資料を作成する前に必ず意識して考えていたのが、「今回の聴衆の理解度はこれくらいだな」「聴衆には、この程度の内容を理解してもらえればよいな」という、プレゼンのレベルと趣旨を明確にすることです。
私の場合、お客様を訪問する際には、次のように相手に合わせてストーリーを組み立てていました。
- 相手が「営業担当」なら:
専門用語を極力排除し平易な言葉で説明し、他社製品と比較して「会社にとってどのようなメリットがあるのか」「どれくらいコストや手間の削減になるのか」をメインに説明する。 - 相手が「技術担当」なら
ある程度専門用語を用いた方がスムーズなので、要点となるデータを見せながら自社製品の技術的な優位性を論理的に訴えかける。
このように、相手の「理解度」と「知りたいこと」に合わせてストーリーを組み立てます。
③ 細かな正確性より全体像を優先する
「木を見て森を見ず」にならないよう、まずは細かな条件設定や例外事項を省き、大枠のメカニズムや結論を伝えます。
私も若手の頃は、スライドに細かな試験条件や数値を書き込んでプレゼンしたことがあります。
実際、先輩から「条件は書いた方がいいよ」「数値も載せておこうか」と指導されたため記載したのですが、結果として、お客様からは本筋とはズレた重箱の隅をつつくような質問が多くなってしまいました。
その経験から、まずは『全体像(結論)』を伝えるのを優先するようにシフトしました。
詳細な学術的正確さが求められる部分は質疑応答に備えて頭に入れており、本編のプレゼンでは「相手に概要を掴んでもらうこと」を最優先します。
④ 詳細なデータは、参考資料に逃がす
「このデータも見せたい」「あの苦労も伝えたい」と思ったら、勇気を持ってそのスライドを本編から外し、最後尾の参考資料(Appendix)に移動させます。
本編は「1スライドにつき1メッセージ・1グラフ」と極力シンプルにし、ノイズを削ぎ落とします。
実際のプレゼンにおいて、聴衆が詳細なデータを知りたい場合は、絶対に質問してきます。
質問が来たら、その時に初めて参考資料に掲載したデータを見せて、説明すればいいのです。
「質問がきた」ということは、概要は把握してくれた証拠ですし、興味を持ってくれた証拠でもあります。
詳細なデータは、思い切って参考資料(Appendix)に移し、本編はシンプルに保ちましょう。
体験談|伝え方一つでビジネスは変わる
最後に、「伝え方は大切だな」と感じた私の経験談をお話しします。
韓国のある顧客へプレゼンに行ったときのことです。
そのお客様は、すでに他社の競合製品を使用しており、新しい製造ラインを新設する際に、他社と我々の製品でコンペティション(コンペ)となっていました。
既に実績のある競合製品があるわけですから、我々は不利です。
私は、何度も現地に足を運び、プレゼンを重ねました。
(ちなみに、韓国語はほとんどできませんので、通訳を介したプレゼンになります)
顧客から「これはどういうメカニズムなのか?」「何故このようなデータになるのか?」など色々と厳しい質問が飛び交いました。
そのたびに、「この顧客が本当に知りたい不安や疑問は何か」を考え、相手の知識レベルに合わせたわかりやすい資料を作成し、回答し続けました。
その結果、見事に自社製品の採用となったのです。
世界1億円以上の売り上げとなる大きな商圏を獲得できました。
当時は、チームリーダーとして自分の采配である程度回していましたから、自身の努力が実り、非常に嬉しかったのを覚えています。
その際に、担当者からいただいた言葉は今でも忘れられません。
(実際は韓国語で言われたので、ニュアンスは多少異なるかもしれません。笑)
「ひのひらさんは、シンプルでわかりやすい資料を用いて説明してくれました。こちらの細かい質問にも正直に真摯に対応してくれたので、この人なら信頼できると思いました。他社の製品も良かったのですが、説明が難解で対応に誠意が感じられなかった。だからこそ、信頼できる御社にしようと思いました。」
この時、「分かりやすいプレゼンは、単なる説明スキルではなく、顧客からの『信頼』に直結するのだ」と確信しました。
時間かけて相手目線で資料を作り直した苦労が報われた、本当に嬉しい瞬間でした。
(おまけ)私が実践しているスライド作成の「3つのマイルール」
今回はプレゼンの「考え方(大原則)」を中心にお伝えしましたが、これらをスライドに落とし込むために、私は以下のような資料作成のマイルールを持っています。
具体的なスライド作成のテクニックやコツについては、こちらの記事で紹介しています。ご参考ください。
まとめ
研究員や技術者が生み出す技術やデータは、企業にとっての宝です。しかし、「どんなに素晴らしい技術でも、相手に伝わらなければ存在しないのと同じ」になってしまいます。
- 難しい言葉を翻訳する
- 相手のレベルに合わせる
- 正確性より分かりやすさを取る
- 不要なデータは削ぎ落とす
この少しの工夫と意識の差で、あなたのプレゼンは劇的に変わります。ぜひ、明日からの資料作成や発表の場で、一つでも意識してみてください。
あなたの素晴らしい研究成果が、しっかりと相手の心に届くことを応援しています!



